公園であいましょう

 ほっと息を吐いたら、いっきに力がぬけて、私は椅子に
 深くもたれた。

 彼女は私をやり込めたかったのだろうが、
 反対に私は、あの記事は嘘だと確信していた。


  (あの佐倉くんが、この相沢さんとつきあうはずがない)


 それでも、佐倉くんと逢えないという現実を突きつけられたのは
 間違いなくて、私は心の中でさけぶ。


  (逢いたい、せめて連絡してほしい!)


 駅で受け取ったメールを最後に佐倉くんとは
 一切、連絡がとれなくなっている。

 郁がたりない、そう言った時のやさしい顔、ついばむようなキス
 何もかもわからなくなるような深いキス、、、、

 固く封じこめた記憶がひとつひとつ浮かんできて、
 キシキシ、心が音をたてるように軋んだ。

 俯いていたから、田辺さんが近くに来たのに気づかなかった。

 

  『郁ちゃん!」


 田辺さんのせっぱつまった声にびっくりして顔をあげる。

 不安とうれしさと戸惑いと興奮とをない交ぜにしたような
 複雑な顔をした田辺さんが近づいてくると、
 そっと私の耳元で言った。



   
   「佐倉って男の人から、電話が入ってる。」
< 132 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop