公園であいましょう
 
 ここのところ、佐倉くんは図書館にあらわれない。
 
 仕事が忙しいんだろう。

 そういえば、大物写真家と組んで写真集をだすのだとか
 TVで言っていたような気がする。


 私は、最近、TVやインターネットの芸能欄を覗くようになった。

 元はと言えば、私が、芸能関係に疎いせいで、佐倉くんを井倉翔太だと
 気づかなかったことが、いけなかったのだ。

 最初に気づいていれば、お互いこんな気まずい思いをせずにすんだと思う。


 でも、今だに気まずく思っているのは、私だけかもしれない。

 胸にたまっていた苦みは、もう薄れてしまった。
 だから、普通に接してもいいはずなのに、

 臆病な私は、佐倉くんと距離をとる。

 もう、二度と傷つかまいとして、、、、。



   「郁ちゃん、いつまでそこ拭いてるの。」



 肩越しに、田辺さんにそう声をかけられて、
 私は、四つん這いの姿勢から、はっと上体をおこした。



   「もう昼休みに入っちゃてるわよ。」



 気がつけば、ずいぶん時間がたっている。

 ずっと、ぞうきんで拭いていた本棚は、若干、木の色が
 抜けてしまっているようにも見えるが、
 気づかなかった事にしておこう。




 「すみません、お昼、入ります。」



 田辺さんにそうことわって、掃除道具をかたづけ、
 お弁当箱をとりだしたところで、

 携帯が着信を知らせる。


 誰だろう?
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