公園であいましょう

 何も言えない私に再び近づいてきた男の人は
 私の手にシュシュをかえすと
 反対に写真集を私の腕から抜き取った。


   
   「ちゃんと渡しておくから。」



 顔が間近に寄せられて、そう言われた途端
 私は踵を返して、走ってスタジオをでた。

 絶対に後ろを振り返らず、まっすぐ前だけをみて歩き
 エレベーターに乗り込む。

 エレベータから降りて、やっぱり走ってビルの外にでる。


 あの部屋から離れることで、自分の身におこった理解不能の事柄から
 距離が置けるような気がして、、、。

 ビルの外に出て、やっとホッと息をついた。



   「何だったんだろ?」



 新手のナンパ?
 
 でも、そんなことするような人には見えなかった。

 いやいや、人は見かけではわからないものだ。


 変な人に写真集を預けてしまったことが、心配になったが
 もう、ビルの中にはかえりたくないし
 佐倉くんには、メールをい打って謝ろう。



 私はもう一度、シュシュで髪をひとつにまとめると
 背筋をしゃんとのばして、駅にむかって歩きだした。


 そんな私の様子をビルの窓から、あの男の人が見ていたことに
 全然気づきもしなかった。

 
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