手の平だけは、私のために【完】
「弥生のおかげ、ありがとな、マジで。……付き合えた」
絞り出すよう言った雄星の声は震えていて、あたしは頭が痛くなる。
それでも笑う。友達っていうポジションだけは、死守したいから。どうしても雄星のそばにいたいから。
――だから、あたしは。
こちらに向けて掲げられた満面の笑みでいる雄星の両の手の平に、自分のそれを勢いよく合わせた。
パンっと乾いた音と共に、ハイタッチが交わされる。
「……おめでとう、雄星」
――その言葉が本心でないとしても。
あたしは雄星のために、彼を祝うために、笑顔を作って、手の平を合わせた。
あたしの口が憎まれ口を叩こうとも、
あたしの心が悲鳴を上げようとも、
あたしの瞳が涙を零そうとも、
――手の平だけは、あなたのために。
大好き、雄星。ずっと言えなかったけれど。誰よりも大切な人。
あなたがあたしのものにならなくても。あたしを好きにならなくたって。他の人と付き合ってしまおうとも。