手の平だけは、私のために【完】
「……佳子先輩って、彼氏いんのかなー」
「知らない」
「知っとけよ」
――佳子先輩は、ひとつ学年が上のバスケ部のマネージャーで、とにかく明るい人。
何かある度にきゅっと目尻が下がって、おっきく口を開けて笑う。
特別美人ってわけじゃないけど、誰にでも気さくだから男女問わずに人気がある。
ちなみに雄星はバスケ部員で、あたしはマネージャー。
フラれるよ、なんて偉そうに言ったけど、ほんとはそうじゃなくて、フラれたらいいなっていう、あたしの醜い願望だったりする。
「弥生は好きな奴いないの?」
「いる」
「えっ、いんの!?」
素っ頓狂な声で言って体を起こした雄星は、見開いた瞳をあたしに向けた。
即答したのはあたしの意地。雄星がちょっとでも、嫉妬してくれればいいのに。
「……けど、誰かは秘密」
「なんだ、つまんね。どうせお前もフラれるよ」
おどけて冗談を言った雄星に、うるさい、と笑って返したけれど、上手く笑えていたかは不明。