手の平だけは、私のために【完】
言われなくても分かってる。
あたしはもうとっくにフラれた気でいる。諦めきれてないだけで。
「……なーに泣きそうな顔してんの、弥生ちゃん」
「ぎゃっ、ちょ、やめてよ!」
雄星はあたしの髪の毛をわしゃわしゃと乱暴に撫でまわして、けけけと声を立てた。
意地悪く口の端を上げて、今度はあたしの頬をつまんでぶにぶにし始める。
……泣きそうな顔、してたかな。
「知ってる? ほっぺ柔い奴ってエロいんだって」
「はあ?」
「変態弥生」
小学生かよ、と思ってあたしも雄星のほっぺたをぐいぐい横に伸ばしたりしてみた。
自分だって柔いじゃん、ていうか肌すべすべなのズルイ。
「……ぷっ、雄星ブサイク」
「弥生も雪見大福みたいなほっぺになってますけど」
「何よー、自分が引っ張るからじゃん~」
――雄星がこんな風に、頬に触れる女の子は、あたしだけがいい。