手の平だけは、私のために【完】
けど、あたしは雄星が好きなんだよ、悪いか。
「雄星はさー、佳子先輩のどこが好きなの?」
「……可愛いとこ」
「ふーん、あとは?」
「何にでも一生懸命なとこ。笑顔」
「へーえ」
「赤ちゃんみたいに俺のことゆーせって呼ぶとこ。涙脆いとこ。他人をちゃんと見てるとこ」
言う雄星は楽しそうで、嬉しそうで、本当に好きなんだなーって、悲しくなった。
聞かなければよかった、と後悔するくらいには。
同時に、雄星にこんなきらきらした笑顔をさせられる佳子先輩が妬ましい。
この笑顔は、彼女のものなんだ。あたしのものなんかではなくって。
雄星の全部が、佳子先輩のものになるんだ。いつか。
あたしを呼ぶ声も、自転車の後ろも、放課後の時間も、いつか。
筋肉のついた腕は彼女を抱きしめて、あたしの頭を撫でた手の平は彼女の手の平を包む。
あたしのものじゃない、雄星は。手に入れられない。
たった爪の先でさえも、きっとあたしに気持ちは向かない。