月だけが見ていた
「付き合ってほしいんだけど」
西日が差し込む、二人きりの教室で
夏休み前日、当時17歳だった私は司くんに告白された。
泥のついたサッカー部のユニフォームのまま
司くんは、教室の扉に背を向ける形で立っている。
「……」
それは、あまりに突然のことだった。
何も反応できずにいる私を見て、司くんは気まずそうに頭を掻く。
「あ…やっぱダメかな、俺じゃ」
「う、ううん!」
ブンブンと首を振って、
「全然ダメじゃない…です」
自分の心臓の音が 脳内にバクバクと響いてうるさい。
緊張で足が震えそうだったけど、何とか踏ん張った。
「…」
沈黙が続く中、おそるおそる顔を上げる。
私の勢いに面食らった様子でいた司くんも
やがて、ほんのり赤く染まった顔をくしゃっと崩して笑った。
「大好きだよ、上原。」