月だけが見ていた

「残業、何時まで?」


ず、と音がして
彼がまたコーヒーを啜ったのがわかった。

腕時計を見ると、午後10時をまわったところだ。


「えーと…11時までには」

「ん。」



室内に再び静寂が戻る。


「……」


手を動かしながら、ちらりと後ろに視線をやると
主任はいかにも退屈そうに、ぼんやり自分のパソコンを眺めていた。


特に忙しそうな訳でも
何をしている風でもない。
< 5 / 84 >

この作品をシェア

pagetop