月だけが見ていた
「司くん…ごめんなさい」


抱きしめられたまま
私は司くんのシャツの裾を握った。


「映画って言わなきゃ良かった……」


そうすれば

司くんがあの時間に事故に遭わなかったかもしれないのに



「…何言ってんだよ、」



体を離して 司くんは、私の両肩を強い力で掴んだ。
その声色には、少しだけ怒りが含まれている。


「サッカーにすれば良かったんだ」

「…上原、」

「私がワガママ言ったからっ、」

「上原!」


私の唇は、
半ば強引に
司くんの唇で塞がれた。


「……っ」


頭が 胸が
とろけそうに熱くて

ぐにゃりと力が抜けた私の体は 司くんによって、しっかりと支えられていた。


何度も何度も、角度を変えて
私たちはキスを繰り返す。


大人になりきれない司くんの不器用なキスが
愛しくて、懐かしくて

私の目からは、また涙がこぼれる。



「……そんなこと言うなよ」


私の頬に流れる涙を手のひらで拭って
司くんは自分と私の額を、こつんとくっつけた。


「好きだよ、上原」

「…うん」

「ほんと好き……」



私も、と言おうとしたけれど
涙で言葉にならなかった。


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