月だけが見ていた
隣から聞こえてくるすすり泣きの声に目を覚ますと
豆電球の明かりだけが、ぼんやりと室内を照らしていた。


「葉子?」


隣に横たわっている裸の葉子は
俺に背中を向けて、肩を震わせている。


「葉子…どうした?」



体を起こして、顔を覗きこむと
葉子はまた、ひくっとしゃくりあげた。

閉じられたままの瞳から溢れる涙が、シーツに染みを作っている。


…寝ながら泣いてんのか?


「おい、」


普段とは全く違う彼女の弱い部分に触れた気がして
若干の戸惑いを覚えながら、抱き寄せようと腕を伸ばした時



「つかさ、く……」



涙混じりの声で
葉子は俺の知らない男の名前を呼んだ。
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