月だけが見ていた
一緒に仕事をするようになって、2年が経った頃だ。


送ってやると誘い出した、仕事終わりの車の中で
俺は初めて葉子にキスをした。

多少は覚悟していた彼女の抵抗は、ほとんどなかった。
どうやら、驚きすぎて体が硬直しているらしい。


「主任、」


何か言いかけた彼女の口を、もう一度強引に塞いだ。


「…上原」


大きく見開かれた瞳を覗き込んで言う。



「お前、俺のこと好きだろ。」



年相応の恋愛経験は踏んできたつもりだ。
女の態度から自分への好意を見抜くくらいの力は身についている。

…それでも、葉子の場合はそれをキャッチするまでに随分時間を要した訳だが。



「…私、降ります」

「待てって、」


細い手首を掴んで、引き止めた。
紅潮した葉子の頬が、妙に色っぽい。



「俺も好きなんだよ。」



その夜

俺は、葉子を帰さなかった。
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