月だけが見ていた
知らぬ間に
私の目からは、涙が流れていた。


何も言わず、瞬きもしないまま固まっている私を見て
司くんは、全てを悟ったかのように穏やかに微笑む。


「わかってたんだ。俺が上原を縛ってること」


後から後から溢れてくる涙のせいで
否定したいのに、上手く首を振ることもできない。


「俺のこと忘れないように、頑張ってくれてたんだよな。」



司くんの声に、嗚咽が止まらない。
こんなに泣くのは何年ぶりだろう。

俯いていた私は
じゃり、と土を踏む音で司くんが近づいてくるのがわかった。
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