月だけが見ていた
自分の胸の中だけに秘めてきたつもりの、仄かな想いは
主任に簡単に見抜かれた。


『俺も好きなんだよ』


そう言われて、初めて主任に抱かれた夜
頭がどうにかなりそうだった。


司くんとの思い出だけにすがりついて生きてきた私を
主任は、真っ直ぐに愛してくれた。


『葉子』


主任に名前を呼ばれる度に
体に触れられる度に

司くんとの記憶は、少しずつ薄れていった。



私が忘れたら 司くんを永久に失ってしまうことになる。


それが怖くて

本当はその場で泣き出してしまいそうなほど嬉しかった、主任からのプロポーズも
とうとう断ってしまった。
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