月だけが見ていた
葉子は上半身を起こそうとしたが、すぐにガクッとバランスを崩した。


「おいっ、」


俺は慌てて葉子の背中へ手を廻し、ベッド外に落下しそうだった彼女を間一髪抱きとめる。


「バカ!まだ大人しく寝てろって…」


腕に葉子の重みを感じ、
一晩振りに視線が交差した瞬間



「ーーー 怖かった」



思わず、口から本音が零れていた。


「お前を失うんじゃないかって考えたら、ほんとに…」


自分の目から溢れる涙を止める事も
腕の中の葉子を離す事も、俺には出来なかった。


再び、この手で抱きしめられたこと。
俺の名前を呼んでくれたこと。


葉子以外に欲しいものなんて、最初から何も無かったんだ。


葉子の気持ちが、他の誰かのものだとしても。
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