月だけが見ていた
「…傷とか残ってねぇだろうな」


乱暴に洟をすすりながら
葉子の顔を見つめた。

葉子も真っ直ぐに俺を見つめている。


「ほんとに、良かった…」


どうしようもなく愛しさがこみ上げて

彼女の瞼に。頬に。耳たぶに。
優しく優しく、キスを落とす。


この自分でも持て余すほどの想いが
丸ごと彼女に届けばいいと思った

もっと もっと もっと。



「主任」


やがて
葉子の頬を、音も無く涙が伝った。
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