月だけが見ていた
「私…幸せになってもいいんですか?」
葉子は、呟くようにそう口にした。
「……え?」
意図が掴みきれず、彼女の次の言葉を待つ。
葉子は涙を拭おうともせず、時折涙に声を詰まらせながら言った。
「ずっと、このまま…主任の隣で…」
「……」
「主任と一緒に生きていってもいいんですか?」
その時の感情を
何と表現したらいいんだろう。
上手い言葉が、俺には未だに見つからない。
ただ、まだ言うことをきかない体で必死に伝えてくれた葉子が
初めて自分の気持ちを正直にぶつけてくれた葉子が、切ないほどに愛おしかった。
・・・一生守っていく。
他の誰でもない、この俺が。
「いいに決まってんだろ?」
思わず自分の胸の中に葉子を引き戻していた。
高ぶる感情に任せ、葉子を力の限り抱きしめる。
けが人の葉子の容態を配慮しなければいけなかったのだろうが、そんな冷静さは自分の中ですっかり消え去っていた。
おまけに、きっと俺は今涙と鼻水でぐちゃぐちゃの、見るに堪えない顔をしているだろう。
……あぁ、最高にダサい。
でも、もう何でもいい。
「世界一幸せにするよ。」