月だけが見ていた
修治さんはそのまま、しばらく黙っていた。

春の匂いを含んだ風が、私の頬を撫でて通り過ぎていく。


「……そうかぁ」


ふわり、と花が開くみたいに
やがて、彼は顔を綻ばせた。



「娘が生まれるのか……」



その目は、本当に本当に慈しみに満ちていて。

私は、自分のお腹に手を当てて
心の中で語りかける。



ーーー ねぇ

あなたのお父さんは、こんなに優しく笑う人だよ・・・。
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