泣き虫イミテーション
偽物の敵対
 家に帰ると光成がいて、

「お帰り」

 そう言って二衣に微笑みかけた。

「…うん、ただいま」

 お互いがお互いに依存しあうこのぬるま湯のような空間がただ心地よく、時間を埋め尽くしていく。
 

「ありえないから、なんなのあの男!」

 真波は叩きつけるように叫んだ。
 端正な顔立ちを苛立たしげに歪めた。そう、樋之上真波はもともと可愛らしい。それに加えて今は、マネージャーとして献身的に陸上部を手伝っている。そのため二衣ほどではないものの、日頃からちやほやされている。
 だからこそ余計許せないのだ。
 準備を整えよう。確かに樋之上の言葉だけでは信用にかけると言ったものだろう。確固たる証拠を持って、脅してやると腹黒いことを考えていた。

(許さないから)


 弟たちの寝息が聞こえる布団のなかで、朔良は眠り損ねたまま時間が流れていくのを感じていた。
 二衣の思惑にはまって行くような気がする。長い下り坂を転がり落ちるように、自分の力では止まれなくなってしまった。
 
それぞれがそれぞれに思考の海に落ちていく。変化は始まり関係は少しずつ変化する。
 歪みはねじ曲げられて、曲がりはさらに複雑に、真っ直ぐは直角に折れていくように、交わっていく。

 二衣さんの隣に居続けること。

 一番になること。

 天の邪鬼にも恋すること。

 朱本光成に痛みを与えること。

 交わっていく。
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