泣き虫イミテーション
 下駄箱で、ローファーから上履きへと履き替える。まだ朝の早いお陰で人は少なくスムーズにリノリウムの床へあがることができた。
 極力光成との登校時間をずらすようにしているため、二衣は一人だった。二衣の登校時間に合わせてくる友達もいたが、今日は珍しく誰もいない。静かな教室で手持ち 無沙汰になり、窓から校庭を見下ろす。
 下では朝練に励む陸上部の姿がある。しばらく見ていると朔良のことを見つけることができた。
 小さく溜め息を吐いて、気だるそうに肘に顔をのせる。そういえばと、樋之上真波を見つけて考えた。

(ミツと真波さんはもう別れたのかな。)

 じっと見つめていたせいか、はたと真波と目があった。遠目だが笑顔で手を振っているのが見える。二衣がそれに手をふりかえすと、真波の回りの男子部員たちも手を振って来た。

 二衣が顔を出していた窓を見つめながら、朔良はまだ考える。それから真波の方へ視線を巡らせた。先ほどまで笑顔で手を振っていた真波は、一転して俯き加減に宙を睨む。
 もしかして知っているのだろうか。光成と二衣の関係を。
 二衣から聞いた話を真実とするなら真波はただの当て馬だ。二衣が光成の愛を実感するためだけに選ばれたスケープゴート。
 この前まで嬉しそうに語っていた真波の姿からは知っているようには見えなかったが、今の表情を見るとすべてを知ってしまったのではと思う。冷たく宙をにらんでいて。
 
「マネージャー!」

 遠くから他の部員が呼び掛けた。真波はパッと笑顔でふりむくとそこへ駆けていく。
 朔良は自分もそろそろ練習を終わらせようと、助走をつけて走り出した。そして視線が窓へと泳ぐ。

「あ、」

 高跳びのバーを飛び越える寸前視界に入った二衣が、楽しそうに手を振っていて。

「相澤くん!!」
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