泣き虫イミテーション

偽物の艱難

｢ミツ、今日は家に帰るね｣

｢え？｣

｢テストも終わったしさ、久しぶりに顔見せにいかないと｣

｢そう…。早く帰ってきてよ｣

｢ん｣

　二衣は遠慮がちに微笑むと、朝食の皿をまとめて席を立つ。光成よりも早く家をでるためだ。
　実家に帰るだけだというのに二衣の表情は固い。まだ朝なのにもかかわらず。
　二衣は朝練をする野球部を横目に、グラウンドわきを抜けて校舎に入った。野球部はグラウンド全面を使っていて、今日は陸上部の朝練は休みだと教えてくれている。
　実家に帰ると決めてから、胃がジクジクと怯えるように痛んだ。
　
（もともと、あそこに住んでたのに。今じゃあの人たちとまた暮らすなんて無理だもんな。弱くなったね、私。）

　腹にそっと手を添えて、撫でさすりながら椅子に座り込む。額を机の天板につけ目を閉じた。
　ずきずきと緩慢な痛みがストレスからか胃をなやませる。
　少しずつ他の生徒が登校してきて教室が騒がしくなり始めた。二衣のまわりにもちらほらと取り巻きの女の子たちが集まってくる。
　日常を蝕む痛みを無理やり無視して、いつも通りに対応した。