泣き虫イミテーション
二衣は朔良を連れて光成のマンションにもどる。朔良は二衣の様子に流されるままに付いていった。
やはり光成は帰っていない。
二衣と光成の家で居心地悪そうに体を小さくする朔良。口数は少なく、二衣がなにか動く音がほんの小さく聞こえる。しばらくして二衣は用意していた夕食を朔良に振る舞った。

「どうしても二人分作っちゃうんだよね」

「余る夕飯のためによんだのか・・・」

「違うけど、」

「というか、この前のも橘さんが作ってたのか?」

「遊びにきたときの?そうだけど」

「本当に何でもできるんだな」

 朔良が感心したようにいうと、二衣はそれに少しだけ眉をさげた。

「何でもは、できないよ」

 今日の不可解な行動といい、今の言動といい二衣の様子に違和感だらけだ。
 けれど朔良は深入りしないように、口を噤む。最初から二衣に関わるべきではないと今ならはっきり分かる。最初は山田の文句を言いにきただけだったのだ。山田に謝れとそう伝えて、おしまいなはずだった。
 それなのに今朔良のいる場所は二衣と光成の家だ。 最近普通に話すようになって忘れていたが、本来なら朔良が話しかけることもできないような学校のアイドル的存在。
 全部が全部、二衣の手のひらの上にあるような感覚。朔良は自身の考えていること全て、二衣に見透かされているような不安を覚える。
 二衣が徒に奪った朔良の唇は、今もなお朔良の脳裏に鮮烈に焼き付いて離れない。

「本当にっ、そういうのやめてくれよっ・・・」
朔良が苦し紛れに吐き出した感情は、確かに二衣の望む展開と結末を導くもの。
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