泣き虫イミテーション
「はっはっは、女子生徒に脅されるか。お前もアホなことしてるな。」

「しょうがないですよ。二衣さんを喜ばすためですから」

「他人と比べて尚、自分を選んでほしいねぇ。正論だが非合理的だな、自らマイナスになる要因を増やすだなんて、ナンセンスだよ」

「二衣さんを悪く言うのは許さないです。」

「排他的だなぁ」

「自分は二衣さんを絶対手放さないですよ。それがわかれば十分なんでしょう」

「なんだ、わかってるじゃないか。知らん顔を舞台にあげろだなんていうから父さん勘違いしちゃったよ」

「うざいです」

「橘の名はいい武器になるさ」

「そういうのはもうどうでもいいです。」

「最初からどうでも良かったんだろう?じゃなきゃ二の姫の方を選んだりしないさ。どう見積っても一の姫の方が優秀だ」

カチャンッ....


耳鳴りがやまなくて、身体中の関節が痛みを訴えて、息がくるしくて、喉が渇いて、頭がぼーっとして、寒くて、熱くて、どうしようもなく辛く苦しかった。
中学のとき。まだ光成が実家暮らしだったから、一緒にはいれなくて、12畳の広すぎる部屋で一人寝込んでいた。
年始すぐのことで、挨拶まわりのパーティーに忙しいから家には私のために一人、年のいった女中が残されたのみだった。
静けさが寂しかった。
眠りから目覚めた私の隣に姉さんがいて、熱に浮かされた頭で私は姉さんにインフルエンザがうつらないかだけを心配していた。

「…姉さん」

「あんたが私の隣にいないと橘の双子っていわれないの。当たり前だけど」

「………?」

「あんたがいないと私まで不完全なのね」

そう言って姉さんが何故か嬉しそうに笑うから、私は静かに目を閉じた。
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