泣き虫イミテーション
文化祭だというのに、やる内容は学芸会みたいだ。ずっと手間はかかるけれども、と二衣は心の中で嘆息する。たとえどれだけ笑顔で繕ってみても、二衣も光成も行事は面倒できらいだった。

二衣のクラスがやるのは演劇だ。しかもシェイクスピアのロミオとジュリエット。二衣のクラスは準備の早いものでもう何度か稽古をやって、セリフを覚えたあとだ。

しかし実行委員の一言で、まだ役は決まっていない。全員が台本全部を覚えるように読み合わせている。

でも、と考える。結局、私の役はジュリエットなんだろうな。二衣は見え透いた結末のように感じていた。

優しい人の笑顔で、クラスを賑やかにしながら密かに嘆く。

「橘さん、ちょっと」

話しかけてきたのは実行委員の西野だ。

「ん?どうしたの」

「そろそろ役を決めるんだけどさ、六公演全部、役者をそれぞれ考えてるんだ。」

「全部違うの」

「うん、じゃないと飽きちゃうし、勝てないから。」

「勝ち負けってなんかあったっけ」

「あー、そこは全然気にしなくていんだけどさ、一つ確認しておきたくて」

「うん」

「朔良とロミジュリにはしない方がいい?」

「え?」
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