泣き虫イミテーション

二衣と朔良の噂が出回っていた。

｢え…？｣

｢もし本当に恋人で、あんまりバレたくないならペアにしない方がいいかと思って。うちのクラスだと絵的に映えるのが相澤と大山くらいだから｣

｢あ、うん。えと朔良くんとでも平気だよ。別に付き合ってるわけじゃないし｣

｢そう、良かった。ならこれでジュリエットは全員決まったな｣

西野は演出用のノートに何か書き込みながら歩いていく。

二衣はそれを見届けながら、噂の広まりを実感していた。平日で学校の最寄り駅、部活終わりの遅い生徒達がこぞって駅に向かう時間。目撃者がいないわけがない。

ざわざわとしたクラスの喧騒のなかにはいくつ二衣たちの噂が交わされているのだろう。二衣は朔良へ視線を向ける。しばらくすると目が合って、あからさまにわかるように二衣はただ一人に向けて、にっこりと微笑んで見せた。