泣き虫イミテーション
朔良と二衣の教室がある最上階は使用禁止になっている。人目を避けるようにそこへすすんで、とりあえず教室に入った。

「…すごい目立ったな」

「噂だと、私と君は付き合ってるらしいからね」

「それだけじゃなくて、お姉さんのこと」

「あぁ、うん。…そうだね」

二衣は表情を作るのを諦めて、困ったように眉を下げて口角をあげた。

「…みんなの理想の人だったのに、ハリボテだってバレちゃった。」

気づかないくらい淡々と涙がでた。泣いてる自覚もないくらい自然に。

「橘さん…。」

「本当は君もダメなのにね。君なんかがいたら、退屈が尻尾をふって寄ってくるよ。ははっ、バカみたいだ。なんのためにつまらない日常に笑顔振り撒いてたかも解らなくなっちゃったのかな、私は。」

自棄になったような台詞に朔良は戸惑う。とりあえずカーディガンの袖で涙の伝う頬を拭いてやった。

「ん?あ、珍しいね、私が本気で泣いてるなんて」

他人事に気付く。乱暴に目元をこすって、少し赤くなってしまったのも気にしないで鼻をかむと、二衣はたちあがった。

「橘さん」

「やだな、いい加減二衣ってよんでくれないと。」

「………二衣、どうするの」

「ふふっ、素直で従順だね朔良くん。私のこと好き?」

「まあ、……好きだろうな」

「それって、世界で一番?何かと比べて劣ってしまうもの?私にとって大切なのは一番でいること。誰のでも構わないけれど、私はあの人より一つくらい優れていていいはずだから」

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