泣き虫イミテーション
文化祭一日目の最後の舞台だ。二衣と朔良は舞台に上がる。朔良の登場シーンは客席のあちこちで笑いがこぼれた。なにせ女装しているのだから。

始まりは舞踏会の出会いのシーンから。

噂のおかげか先の2公演よりも観客席は埋まっている。今日一日、一衣が帰って、二衣たちが光成や若松と合流したあと、今度は衣装をきて朔良と文化祭を歩いた。手を繋いで、恋人のように巡った。
それは光成との婚約をさらに広め、そして混乱させる意図通りの結果になる。付き合っているのは朔良。しかし婚約者は光成。家同士の争いのせいで結ばれないロミオとジュリエットを、連想した人は何人いるだろうか。

二衣と若松が考えたのは、噂を全てステマにしてしまうこと。

今日の分は間に合わないから本命は明日の最後の公演でかまわない。明日までにみんなが婚約者であるとの噂を聞いているようにして、さらに、光成をジュリエットの婚約者として出演させる。若松は今、台本の改変中だった。

「…二衣さん」

舞台袖からスポットライトに照らされて、凛々しく剣を振るう二衣が見える。その表情は演技のせいかわからないけれど、険しい。

「そんなに、何が怖いんだよ………」
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