泣き虫イミテーション
(本当の私は薄汚い。理想の二衣さんからの落差がひどいでしょう?だからミツ、そんな顔をしないでよ)

追放される前夜、ジュリエットの部屋で今生の別れにはしないと誓って、ジュリエットの朔良に口付ける。フリをする。客席に背を向けて座っていたジュリエットに顔を寄せて、吐息を感じるすんでのところでとめる。舞台袖には光成がいるから二衣は朔良にキスしたりしない。

「『あぁロミオ様、さようなら』」

「『さようなら、また会いにきます。その日までどうか僕のことを忘れないでいてください』」

(ロミオとジュリエットが美しく、儚く、切ないものとして残るのは創作だからだ。二人の人間が死ぬには、早とちりが原因だなんて馬鹿げてる。それでもお互い初恋だったから、相手がいなければ生きていけないと思い詰めることができたのね)

今さら、気づく。初恋と言う言葉。
舞台が暗転して切り替わる。ジュリエットと乳母が二人だけになって、スポットライトがさした。会いたいと嘆くジュリエットに乳母が提案をする。

出番までまだ間がある二衣は、一度若松の方へむかった。司祭役の西野は舞台に行って、光成もそれを見ているから近くには誰も居なかった。
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