泣き虫イミテーション
「…ほらね、ミツならこうするの」

テーブルの上においたスマホが振動するのを、とろけそうな笑顔で見ながら二衣は言った。

画面には光成の名前が表示されている。

「私は私のことを好きな人が好き。だから自分じゃ選べない。でもね、ミツと朔良くんは全然違うの」

そう言いながら窓の外を眺める。

暗くなった道路をライトで照らしながら、何台もの車が通った。

「あと、20分もしたらミツが私を迎えにくるよ」

「場所分かるかな」

「GPSで一発だもの」

「じゃあそれが橘さんの答えなのね」

「そう。即答できるほど深くはないけどね」

二衣は温くなったコーヒーを飲んで、時計の秒針が進んで行くのを眺める。



この二月、必要のない煩悶で不安な夜を潰していた。
揺るぎなく定まった将来の伴侶。
進んだ気のしない歩み。
偽りだらけの理想像。
依存性な気持ち。
姉さんの、イミテーションとして。

でももういいんでしょ?

綺麗で優秀で強くて、才能に溢れたオリジナルに私は勝てない。きっとそれこそ揺るぎなく。あの家にとって正しくて必要な人は姉さんだから、代替品なんて本当はいらなかった。
私がならなくちゃいけなかったのは。
< 79 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop