幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
屋敷に帰ると、なぜか母が表で待っていた。
ふつう、母の年齢では憚りそうな真っ白なワンピースを着て、黒い日傘を持っている。
お嬢様育ちが匂いたつ立ち姿だった。
前の学校では登下校に使用することを禁じられていた自転車から礼太があぶなっかしく降りると、気づいた母が手を振ってきた。
「ただいま。どうしたの」
「おかえりなさい。頼まれごとついでにあなたを待ってたの。華女ちゃんから伝言よ。別に入ってもかまわないわよおって」
「……家に?」
「ううん、オカルトなんてらに」
母は言うとにっこり笑った。
「ちょうどいいから自転車貸してちょうだいな。暑くってかなわないわ」
「母さん、自転車乗ったことあるの」
「もちろんあるわよぉ」
当たり前じゃない、と楽しそうに笑う母。
本当かよ、と内心疑いながら、ハンドルを母に渡した。
「じゃあ、ちょちょいと終わらせてくるから、いい子で待ってなさいね」
もう礼太はいい子だなんだという歳でもない。
礼太は母のよろよろ遠ざかる背中をあきれ顔で見送り、母が倒れる様子のないことを確認してやっと門をくぐった。
おそらく、廉姫が華女にことの次第を伝え、華女が母い伝言を頼んだのだろう。
廉姫は主が変わった今でも華女のそばをはなれようとはしないが、どうやら数百年の重みを抱えた契約という絆のせいで、廉姫には礼太の言動が筒抜けらしい。
(でも、僕には廉姫が何してるかとか全然伝わってこないもんなぁ。ちょっとずるい気もする)
蔵峰リリィの前で顔を赤くしていたことまでばれているかもしれないと思うと、げんなりせずにはいられなかった。
そして不思議なのが母だ。
おそらく、礼太が帰ってくるという虫の知らせでもあったのだろう。
母には昔からそういうところがあった。
礼太たち兄弟の心がもしかしたら母には読めるのかもしれないと思ったことが何回もあった。
母親というものがそもそもそういうものなのか、それとも奥乃家を支える三本柱筆頭、七尾家の血を色濃くついでいる母だからこそ成せる技なのか。
それは礼太にもわからなかった。
ふつう、母の年齢では憚りそうな真っ白なワンピースを着て、黒い日傘を持っている。
お嬢様育ちが匂いたつ立ち姿だった。
前の学校では登下校に使用することを禁じられていた自転車から礼太があぶなっかしく降りると、気づいた母が手を振ってきた。
「ただいま。どうしたの」
「おかえりなさい。頼まれごとついでにあなたを待ってたの。華女ちゃんから伝言よ。別に入ってもかまわないわよおって」
「……家に?」
「ううん、オカルトなんてらに」
母は言うとにっこり笑った。
「ちょうどいいから自転車貸してちょうだいな。暑くってかなわないわ」
「母さん、自転車乗ったことあるの」
「もちろんあるわよぉ」
当たり前じゃない、と楽しそうに笑う母。
本当かよ、と内心疑いながら、ハンドルを母に渡した。
「じゃあ、ちょちょいと終わらせてくるから、いい子で待ってなさいね」
もう礼太はいい子だなんだという歳でもない。
礼太は母のよろよろ遠ざかる背中をあきれ顔で見送り、母が倒れる様子のないことを確認してやっと門をくぐった。
おそらく、廉姫が華女にことの次第を伝え、華女が母い伝言を頼んだのだろう。
廉姫は主が変わった今でも華女のそばをはなれようとはしないが、どうやら数百年の重みを抱えた契約という絆のせいで、廉姫には礼太の言動が筒抜けらしい。
(でも、僕には廉姫が何してるかとか全然伝わってこないもんなぁ。ちょっとずるい気もする)
蔵峰リリィの前で顔を赤くしていたことまでばれているかもしれないと思うと、げんなりせずにはいられなかった。
そして不思議なのが母だ。
おそらく、礼太が帰ってくるという虫の知らせでもあったのだろう。
母には昔からそういうところがあった。
礼太たち兄弟の心がもしかしたら母には読めるのかもしれないと思ったことが何回もあった。
母親というものがそもそもそういうものなのか、それとも奥乃家を支える三本柱筆頭、七尾家の血を色濃くついでいる母だからこそ成せる技なのか。
それは礼太にもわからなかった。