幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
………疲れた。


礼太は自分の部屋に引っ込むと、床に突っ伏した。


「隼人くん」


ある依頼をきっかけに友達になった霊を呼んでみたが、あいにくと返事はなかった。


(家族のところに帰ってるのかな)


隼人は死してなお、家族のことが心配でこの世を離れられないでいた。


隼人を殺した諸悪の根源はいなくなったのでもうその必要はないのだが、隼人は妖霊になりかけているかなり存在の強い霊なので、そう簡単に成仏することはできない、らしい。


礼太は妖退治の奥乃家の次期当主……違う。今は当主だが、肝心の家業について、あまり知識も経験もないのが現状だ。


それに、経験はこれからも増えることもないだろう。


あの日、華女に言い渡されたことの一つに、礼太は当然だろう、とうなづいた。


今までは兄弟達の妖退治に同行していたが、礼太の中に封印された奥乃姫が他の妖たちに反応し、しばしの覚醒を起こすとなれば話は違ってくる。


こうして礼太の役立たず退魔師期間は終わりを告げた。











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