幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
「にいやだって、きっと良くなるさ。そしたらわれと一緒に村の人たちの病や怪我を治して暮らすんだ」


「そうなればいいがね」


 善一は可笑しそうに笑った。


 自分が良くなる事など考えられないという顔だった。


「大丈夫だよ。いつかおっかさんが治してくれる」


「おっかさんだって万能じゃあないんだよ、宗治郎」


 にいや。優しいにいや。


 善一が無気力に笑うとき、宗治郎は全身がむずがゆいようなやるせない気持ちになる。


 まだまだ子供の宗治郎には、善一を病から救ってあげる術がない。


 でも、でもいつかは。


「にいや! おっかさんに出来なくたって、きっとわれが治してあげる。さっきもね、筋が良いって褒められたの。きっときっとおっかさんより凄腕の薬師になって、おとっつぁんに医術も指南してもらって、だから」


 意気込む弟を眩しそうに見つめながら善一は、


「ありがとう」


 と言った。

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