幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
額から頰へと、汗が一筋つうっと滑った。
まだまだ子供らしさが残るものの、大人の片鱗が垣間見える礼太の顔は、さっきから赤くなったり蒼くなったりと忙しい。
見知らぬ少年少女たちの好奇の目が無遠慮に突き刺さってくる。
ああ、値踏みされている。
それがわかっていても、器用に振る舞える礼太ではなかった。
「それじゃ、奥乃くん、自己紹介どうぞ」
このクラスの担任らしい白髪の教師が、慣れた口調で言った。
ひくっ、と喉がひきつる。
「え、えと、奥乃 れ、れーた、と申します」
女子の可愛らしくも残酷なくすくす笑いが、教室に控えめに響いた。
今度こそ礼太は、つま先から頭のてっぺんまで真っ赤になった。
「趣味は、本を読むことと、テニスです」
パラパラとまばらな拍手が鳴り止むや否や、礼太は担任が指さす空席に足早に向かった。
一番後ろの、窓際から二番目の席。
隣には、礼太の自己紹介の間、唯一つまらなそうに窓の外を見ていた少年がいた。
あまりにも熱心に外を眺めているので、礼太は、こほん、と小さな咳をしてみた。
ようやく、端正な顔がこちらを向く。
淡くて深い瞳には、どこか揶揄うような色が見え隠れしていた。