幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
恐ろしく長いホームルームが終わると、教室にざわめきが戻ってきた。
それぞれの仲良しグループで雑談が始まる。
朝の光景はまるで映し鏡のように、もといた中学校と似通っていた。
胸にじわり、と痛みが滲む。
残してきた思い出や日常、友達。
同年の子どもたちで構成される四角に区切られた世界は、不思議なくらい似通っているのに、この朝川中学校には礼太がこれまで培ってきた思い出はなく、彼らはまったく見知らぬ他人であり、礼太こそが異端だ。
チラチラと無遠慮な視線が礼太を値踏みする。
礼太は浅くなる呼吸に息苦しさを覚え、制服の胸のあたりをぎゅっと握った。
「え、えと、おくのれぇたと申しますぅ」
高い作り声が隣から聴こえた時、礼太は一瞬幻聴かと思った。
聴こえた先には、どう考えても希皿しかいなかったからだ。
らしくないニヤニヤ笑いを浮かべる希皿を唖然と見つめた後、ようやくからかわれたのだと気付いた礼太は、少しムッとして眉を上げた。
「そんな言い方、してない」
「いーや、してた。超テンパってた」
「……そんなに変だった?」
「まぁ…許容範囲だろ」
朝から緊張し通しだった身体から、少し力が抜けた。
「これから、ご鞭撻のほどよろしく、希皿」
「んー、ああ。」
形の良い唇が緩やかな弧を描いて、礼太にうっすらと笑ってみせた。
「あー、ずるい。きいちゃんったらもう転校生と知り合いなの?」
ふいに、少年の声が上から降ってきた。
声変わりの片鱗もない、澄んだ声だった。
反射的に見上げた先で、小作りな顔をした色白の少年が、にこにこと礼太を見下ろしていた。
それぞれの仲良しグループで雑談が始まる。
朝の光景はまるで映し鏡のように、もといた中学校と似通っていた。
胸にじわり、と痛みが滲む。
残してきた思い出や日常、友達。
同年の子どもたちで構成される四角に区切られた世界は、不思議なくらい似通っているのに、この朝川中学校には礼太がこれまで培ってきた思い出はなく、彼らはまったく見知らぬ他人であり、礼太こそが異端だ。
チラチラと無遠慮な視線が礼太を値踏みする。
礼太は浅くなる呼吸に息苦しさを覚え、制服の胸のあたりをぎゅっと握った。
「え、えと、おくのれぇたと申しますぅ」
高い作り声が隣から聴こえた時、礼太は一瞬幻聴かと思った。
聴こえた先には、どう考えても希皿しかいなかったからだ。
らしくないニヤニヤ笑いを浮かべる希皿を唖然と見つめた後、ようやくからかわれたのだと気付いた礼太は、少しムッとして眉を上げた。
「そんな言い方、してない」
「いーや、してた。超テンパってた」
「……そんなに変だった?」
「まぁ…許容範囲だろ」
朝から緊張し通しだった身体から、少し力が抜けた。
「これから、ご鞭撻のほどよろしく、希皿」
「んー、ああ。」
形の良い唇が緩やかな弧を描いて、礼太にうっすらと笑ってみせた。
「あー、ずるい。きいちゃんったらもう転校生と知り合いなの?」
ふいに、少年の声が上から降ってきた。
声変わりの片鱗もない、澄んだ声だった。
反射的に見上げた先で、小作りな顔をした色白の少年が、にこにこと礼太を見下ろしていた。