幻桜記妖姫奥乃伝ー月影の記憶
昼休み、蔵峰 リリィがなにやら意味深な様子で礼太のもとにやってきた。


希皿の様子をちらちらと伺いながら、礼太の耳へ唇を寄せる。


「放課後、ここへ来て。慈薇鬼くんにばれないようにね」



息が当たってまたもや真っ赤になっていた礼太は慌てて差し出された紙を受け取った。


『家庭科準備室』と書いてある。


家庭科準備室。


むろん、家庭科室の隣の部屋だ。


礼太は思わず顔を引きつらせた。


この学校の家庭科室にはいろいろお世話になった……。


リリィと時間差で礼太の元にやってきた希皿は、


「あいつらになんか変なこと言われなかったか」


と開口一発言ってきた。


「変なこと?」


「オーラがどうちゃらとか、守護霊がどうちゃらとか」


「オーラがいぶし銀だねって言われたよ。ラジくんに」


不思議なユーモアの持ち主だ。


希皿はなんとも言えない顔をすると、礼太の顔の前に指を突き立てた。


「いいか、厄介なことに巻き込まれまくなかったら、ラジやら蔵峰やら忍やらに呼び出されても無視しろ。…」


礼太は反射でうなづきつつ、拳に握ったままの紙切れを意識せずにはいられなかった。


すでに呼び出されてしまったのだが……。


希皿が意味もなくこんなことを言うはずはないが、せっかく声をかけてくれたのに無視するのも気が引ける。




……どうしよ。





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