恋人たち【短編集】



それから凜にあたたかいココアを渡した。凜は甘党で、俺からしたら甘ったるーいココアが大好物なのだ。
でもそんなとこも、たまらなく可愛い。


「あのな、凜。」

「別れないから。」

「――は?」

「私絶対、別れないから!」

そう言って凜は、足元を見つめたままなにも話さなくなった。


別れる?なんでそういう話になったんだ?

うーんうーんと唸(ウナ)っていると、凜が、“はぁ?”と言いたげな顔でこっちを見た。

「そういう話じゃないの?」

「なにが?」

凜が、はぁっとため息をつく。
「ここに来た理由。」

「ああ…ああ!それはね、今日部活する凜を見てて、ますます凜が好きになったなぁって思ったのと、邪魔して悪かったなぁって思って。」

「なによそれ…」

凜はまた、ため息をつく。俺はそんなに悪いことを言っただろうか…。
渋々OKをもらって半年。凜にはため息をつかせてばっかりだ。

「ごめん…だめだった?」

「だめよ、だめに決まってる!」

「そ、そうか…」

でも、そんな断言しなくても…さすがにちょっと悲しくなって、下を向いた。

「いつからそんな卑屈になったのアンタは。」

「へ?」

「部活、もっと来なさいよ。じゃないと…アンタのとこにも行けないでしょ?」

凜の頬はリンゴのように真っ赤だった。

「凜、俺の部活見たかったの!?」

「みんなが、見ろって言うからだから。別に自分からじゃ――」

「凜。手繋いでいい?」

「ちょっと聞いてんの?」


凜の慌てっぷりがかわいくて頬が緩む。
なんだ――
一方通行じゃ、なかった。よかった。

「大好きだ!凜!!」

「もう!そーいち!うざいっ!」

涙ぐむ俺に、凜はもうひとつ、プレゼントをくれた。

「名前…!!」

はじめて呼んでくれた。もう忘れられていると思っていた。

思わず凜の手をギュッと握り、
痛かったかなとハッとして、力を弱めた。

「もう……バカ…」

「ん?」

「私も…バカなそういちが好きだな…って、思った。」

真っ赤な顔でぷいと横を向いている凜の、小さな手が、俺の手をぎゅっと握っているのに気づいたとき、
俺は倒れそうになった。

「俺、今日死ねるわ」

「バカじゃないの?」



やっぱり大好きだ、凜。
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