恋人たち【短編集】
久々に握った明日香の手のひらは、
昔とは比べものにならないくらいやわらかくて、
でも泣いたせいか、相変わらず子どもみたいにじんわり熱かった。
ちいさなこどもと同じ。手のひらをくっつけてぎゅっと繋ぐ。
今の俺に、指を絡ませる度胸なんて、ない。
近所の神社に着いた時、
明日香の真っ赤だった目は、元通りの青みがかった白にもどっていた。
「なんか飲み物いる?」
「お、太っ腹やーん、どうしたん?」
「どうせこんなことやと思って、小銭持ってきたの。」
「さっすが、私のこと分かっとるね。」
俺を見て歯を見せて笑う明日香を見ていたら、
いつの間にか彼女を抱きしめていた。
「……っえ、ユウ…!?」
「……」
俺は、動揺していた。
小さい頃から何度となくしてきた、ただなぐさめるつもりのハグは、こんなに密着するものだったか。
心臓の音が聞こえるものだったっけ。
ぱっと腕を解いて、すぐに自販機の方を向く。
明日香の顔は敢えて見なかった。
「……明日香はどうせ、ぶどうジュースやろ。
炭酸飲めないの。」
「う、うん…。」
なにやってんだ、俺は。
明日香は、妹だぞ?