はちみつレモン
聞き様によっては冷たく聞こえるだろうその科白の裏の意味を私は知ってる。
そもそも私に移したのは自分のくせに、と思わず吹き出しそうになったけれど唇を噛んで笑いを噛み殺す。
普段は名前で呼ばれる関係であっても、社内では私はあくまで部下の一人だ。お互いポーカーフェイスでやり過ごすのは慣れっこになっている。
飴については口に出さず、仕事に戻りますと一礼して私も自分のパソコンの前に戻った。机の端にもらったのど飴を置いてみると、眺めているだけで風邪を吹き飛ばせるくらい元気が出て来そうだった。
「今日も凄かったね、緒方課長の雷」
田中君とは反対側から同期の美樹が椅子を寄せて囁いてくる。
「久しぶりに間近で聞いたわー。やっぱすごい迫力。あんなのしょっちゅう食らってて怖くないの、陽菜」
「んー?怖いよ」
嘘。本当は怖いなんて思ってない。
あのお腹に響く低音が私の鼓膜を震わせると、首筋を撫でられたかのように背筋がゾクリとする。緒方課長の声には媚薬のような効果がある。幸いな事に今のところそれが効いているのは私だけのようだけれど。
「さすが慣れてる人は違うわ」