はちみつレモン

 パジャマのまま課長に抱きかかえられて運ばれていく姿なんかを美樹にうっかり見られたりしなくて本当に良かった。あの日二人がそれぞれ定時で上がったと考えると、課長と美樹が鉢合わせしなかったのは間一髪の幸運の可能性が高い。


「ちょっと、大丈夫?」


 急に咳の発作に襲われた私の背中を美樹が軽く叩いてくれた。


「ゲホッ、び、病院行ってたんじゃないかな……連絡入れてくれれば良かったのに」


「そっか、後で連絡しとこうと思って忘れてたわ。てか咳酷いけどトローチとかのど飴とか持ってないの?……なんだそこにあるじゃない」


 幸いな事に美樹は自宅へ不在だった事についてそれ以上追及して来なかった。その代わり彼女が示したのは課長がくれたのど飴。


「え、先輩のど飴持ってるんですか?一つ下さい。なんでこう会社の中って乾燥してるんでしょうね……」


 美樹の言葉に反応したのか、タイミング悪く逆サイドから田中君の手が伸びてくる。


「……ダメ」


 私は素早く手を伸ばし、彼の手から飴を守った。

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