【好きだから別れて】
「…つうかコンビニの店員うけたよね。いくら人いないからって外まで出てきて挨拶する?」


「ん?まぁ普通あれはねぇだろな。俺サイドミラーで確認したらさ、すんげぇニコニコして手まで振ってたぜ?」


「ぶっ。うちら愛されたんじゃね?」


「また行ってみんのもおもしろかも」


「じゃ、あえて3カゴ分買うとするか」


「歩ならやりかねないのがこぇえ~」


話題を変えたらすんなり悠希は話についてきた。


しつこく前の話題に食い付かれたら理性を保てる自信なんてない。


忌まわしい過去なんて切り落とされずに済んだ右手で握りつぶしたい。


うまく話題の切り替えに成功し、あたしは胸をなでおろした。


「悠希」


「ん?」


「歩さ、息吸うのもダリィ~って思ってたけど今は生きるのも悪くねぇなってちょっと思えてんだ」


「なんで悪くねぇの?」


「おめぇがいるからだろボケ!」


「可愛いんだか可愛いくねぇんだかわけわかんねぇ女」


「とか言いながら好きなくせに」


「うっせぇな!」


「なんでおめぇがキレんだよ!」



そういうわりに口元がだらしなく緩む悠希が微笑ましい。


…平坦な道なんてどこにもなくて。


泥沼に足を取られたり、いびつな空間で迷ったり。


悠希と出逢い数ヶ月の間。


振り返れば色々あったけど、あたしの気まぐれできたコンビニがこんな思い出の一ページになるなんて思いもしなかった。


それからの帰路の途中。


悠希は顔を赤らめ言った言葉がある。


「お前との子供だったら絶対可愛いだろうな。顔とかじゃなくてお前の子だから…いや、なんでもない」


約束なんていらない。


永遠の誓いなんていらない。


あたしはあなたと今こうして未来を想像していられるだけでこんなにときめきを隠せないでいる。


心に触れるだけでこんなにも愛しさが溢れ出してくる。


――悠希大好き。あたしなりにあなたを愛していきたい


悠希を思い、惹かれていく心に迷いなどない。


悠希との未来。


あたしはきっとうまくいくと信じてる。


終わりなんてないって。


悠希のぬくもりと匂いの残る白いパーカーに包まれ、愛は続くんだとあたしは信じてた。
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