【好きだから別れて】
「あたし同業に冗談言いませんよ。そんなに器用じゃないですから」


「んじゃ真に受けちゃうよ?ははっ」


慶太さんは口からゆっくりタバコの煙を吐き、恥ずかしそうに照れ笑いした。


うわずった声がやけに可愛いくて触れたい衝動にかられたが、理性をきかせ手に力を込める。


年上の男を可愛いなんて思うのは失礼かもしれない。


でも、好きになると一つ一つが不思議と愛しく感じる。


「ってか歩って読んで下さい。あたし「ちゃん」とかつけられるの馴れてなくて」


「ん~。じゃ歩。俺も慶太って呼んで。敬語も禁止!」


「マジすか!?余裕で呼びつけしちゃうよ?慶太、慶太!どうだ!」


堅苦しかった壁を取っ払い、一歩近付けた気がして本当に嬉しい。


思わず声を弾ませ、勢いで名前を叫んでいた。


「おいおい。なんか恥ずいな…さりげ歩おもしろ?」


「ん?あたし?足りない子。なぁんてうっせ~よ。ってバカか?」


「ぷっ。ははは!おもしろじゃん!」


自分のペースになると強気になり暴言を吐いてしまうのがあたしの悪い癖。


そんなあたしを慶太はあっさり笑い飛ばした。


「いや~俺の目は節穴じゃないな。じつは歩見た時、気強そうだしおもしろい奴なんじゃないかと思ってたんだ。想像通りでウケる。はははっ」


「えぇ。昨日は猫かぶってました~歩はこんな奴なんよ。逆ナンまでかましちまったしね…歩に捕まって可哀想にチ~ン」


軽く手を合わせ拝む真似をして笑いをとる。


おもいっきり笑っている慶太の姿を見て火がつき、つい暴走してしまった。


「気楽にしゃべれてこっちの方がいいや。おっ、ちょっとそこに止まるな」


車は人通りの少ない場所へ入り、街灯もなくカップルがいちゃつくにはよさそうなポジションに停車した。


変に意識するのもなんだと思い、我先に慌てて声をかける。


「慶太はさ、夜専門で仕事してるの?」


「いや、日中の仕事がメインだよ。夜はバイト程度」


「じゃ今日は長くいれないじゃん!明日仕事あるでしょ?」
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