【好きだから別れて】
そして無職になってしまったあたしは就職はすぐ探さず、貯金を切り崩し実家で生活をした。


近くに住む親友の家に遊びに行ったり、悠希と会ったり。


時間が許される限り自分の為に時間を費やす平穏な日々。


悠希とは仕事をしていた頃のように休みのたび二人で会っている。


が、家にはあげていない。


以前より母とは仲良く過ごせているけど、母が口を滑らせ父の事を悠希に言わないか恐れていたんだ。


悠希にとって父の存在は偉大。


あたしにとって父の存在は邪魔なもの。


二人が抱く父の価値観にズレがある。


あたしが父を恨んでいると悠希が知ったら嫌われてしまうかもしれない。


失うかもしれない。


だからあたしは父との確執を隠そうとしていたんだ。



だが日を追うごとに母には会わせたいという気持ちは芽生えていった…


いつも通り悠希が休みの日に会い、実家の前まで送ってもらった時。


何気なく悠希に声をかけた。


「あのさ。今、母親いるんだけど…上がってく?」


突拍子もない思いつきだが、しっかりしている悠希だからこそ母に紹介したい。


きっと緊張のあまり声は震えただろう。


「マジ!?」



「マジ」


「いきなりじゃね!?会うとか緊張すんだけど」


「んな、あたしも緊張するよ!」


「あ~どうすっかな。行ってみたい気もするけど…でもなぁ~何話せばいいかわかんねえし」


悠希は何だかんだいいながらもハンドルをきり、車をしっかり止め直し、家に上がる決心をしたようだ。


「やべぇ~マジ何話すといいんかな!?」


「いや、わかんねえ…」


無責任かもしれないが、それが今あたしの言える精一杯の答え。


そわそわ二人は車を降り、玄関の前に立ちはだかる。


「きったねぇ家だけど上がって」


「大丈夫かな」


緊張し悠希と目を合わせ、あたしはドアノブに手をかけ扉を開けた。


「入って」


「お邪魔します!」


悠希は玄関口で大声をあげ挨拶し、力みすぎたのか顔が赤かった。
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