【好きだから別れて】

「はい！」


一階の茶の間から聞こえてきた母のその声は裏がえり気味で、あたしが久しぶりに男を連れてきてびっくりしたようだ。


「こっちこっち。二階に上がって」


「えっ？おうよ」


悠希の手を引き階段を登り、母と顔を合わさず悠希をすぐあたしの部屋に招き入れた。


「だあ～っ。緊張した」


悠希は腰が緊張で抜けたのか床へ座りこみ、母にまだ顔を見せていないのにダウンしている。


「はははっ！なんかうけるんだけど」


そんな情けない姿を見てあたしはつい爆笑してしまった。


「なんだよ！これから俺はどうすりゃいいんだ！？」


「何もしなくていいんじゃね？ぷぷっ」


悠希が動揺している姿が可愛い過ぎて笑いが止まらない。


わざとからかい肩に手を置いてみた。


「お前笑ってんじゃねえよ！俺はなぁ俺はなぁ」


「俺は？」


「心の準備も仕切れてねぇのにこんないきなり上がると思ってなかったから緊張してんだよ！」


むきになり、うわずった声から悠希のドキドキ感は伝わってくる。


とにかく可愛い過ぎる。


「悠希～悪りぃ悪りぃ。急すぎたよね。でも思いたったらすぐ行動でしょ」


「急すぎだっつうの！」


興奮して話す悠希の顔はますます赤らんでいる。


あたしは都合よく自分の解釈を押し付け、悪魔っぽくにやついた。


「吠えんなぁ～ごめん～」


「ん？んん！？」


悠希は突然座布団を食い入るように見て、なにやらありげに目が血走りだす。


「どうしたん！？」


「もしかしてネコ飼ってる！？」


悠希の赤らんだ肌があっという間に青ざめていく。


「ああ～つい最近までいたけど貰われてったよ。何で？」


座布団を見てから顔色が変わった悠希を不思議に思い、原因の座布団をよく見るとネコの毛が一本目立っていた。


――毛がなんかしたんかな？


シミがあるわけでもなく、たかが一本の毛が張り付いた座布団。


何の疑問も持たずにいると悠希は後ずさりし


「俺…動物アレルギー！！」


悲鳴に近い声を出し、この世が終わったかのようにしている。