【好きだから別れて】
悠希の影を追い、夢を見るあたしを不信に感じている真也は、愛が自分に向いていないと気付いていただろう。


外を眺め憂鬱そうなあたしを見ては「俺の事好きか?」と何度も聞いてくる。


なのに返事は「好きなんじゃない?」なんて感情もなく嘘を並べ、曖昧に言葉を濁らせる。


「忘れさせる」そう言ったくせ、悠希に対する思いは増えてくばかりで。


「ハッタリこいてんじゃねぇよ。腐れ男」って内心真也を笑ってた。


「おめぇの存在が邪魔なんだよ。カス」そう思う時もあって、あたしをめいいっぱい嫌いになり、すんなり消えてもらいたかった。


自分が離婚を切り出せば慰謝料だの養育費だの物事が面倒になったり、下手したら子供もとられたり…


最悪の事態を回避したくて、無理して我慢して。


自分でも訳がわからずハチャメチャな道を突き進んでいる。


シングルマザーの選択肢だってあるのに。


どこか遠くの地へ消えてしまう方法だってあるのに。


嫌いな男の隣で暗い顔をし、出産を迎える日までの10ヶ月をこなそうとしていた。


道路を埋め尽くしていた雪が姿を消しだした妊娠3ヶ月。


太陽がたまに味方をしてくれて、気持ちよく洗濯物を乾かしてくれた妊娠4ヶ月。


緑の葉が色付き始め、微かに香る草花の匂いに酔いだした妊娠5ヶ月。


そうこうして妊娠6ヶ月に差し掛かる頃。


夢のような出来事があたしの元に訪れた。


これから起こる夢のような「奇跡」


そいつは深く傷痕を残し、あたしをまた暗闇に引きづり込み、迷いの迷路に突き落とそうとしていた…
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