【好きだから別れて】
「久しぶり~俺だよ~わかるぅ?」


やはり電話の主は悠希で、携帯を通じ悠希の後ろはザワザワしていて人が沢山いる様子だった。


推測だが、この悠希のしゃべり口調でいくと酒が入ってる。


語尾が伸び伸びでわかりやすい奴。


「酔っぱらってる?何したの?」


真也の顔色を伺いつつ悠希だと気付かれぬよう話をそらす。


「えへへっ。酔っ払ったぁ~ってか歩の近くに誰かいんの~?」


よそよそしく会話したあたしの様子が変だと悟った悠希は、探りを入れてくる。


言いたくなかったが、板挟み状態で嘘はつけない。


早かれ遅かれ真実はバレる。


どうせ結婚がバレるなら自らの口で伝えるべきだ。


あたしの口で悠希の耳に伝えるべきだ。


「旦那いるよ」


「はっ?お前何言ってんの?」


「旦那隣にいるって」


「結婚!?結婚したって事!?」


悠希の声はトーンが一変し、怒濤の驚きが伝わってくる。


無理もない。


たった半年そこらで流れが変わってしまったのだから。


元彼女がたった半年で他人の嫁だと言いきっているのだから。


「お腹に赤ちゃんいるんだわ」


あえてあたしは悠希に対し、淡々と答えた。


本当は今すぐでも会いたいのに。
おもいっきり胸にうずくまり、きつく抱き締めたいのに…


「……。お前ずるい。俺の気持ちにいつもいる。お前忘れようとして試しに彼女作って…でも気になって気になって結局ダメで…ふざけやがって…なんでお前電話よこさなかったんだよ!」


――えっ?よこすのは悠希でしょ!?


意味不明な言葉を口にする悠希に戸惑ってしまった。


あたしがとらえた約束は、悠希が電話をくれるはずなのだから。


東京に行き、あたしを捨てていったくせ偉そうに語ってるし。


なんなの!?


「お前が10月によこすって言ったんだろ!」


「えっ!?俺は歩からくると思って待ってたんだぜ?いつまでたってもこねぇしよ。イライラして生きた心地もしねぇしよ」


互いにしていた勘違い。


悠希はあたしを待ち、あたしは悠希を待ち。


すれ違ってしまった二つの思いが急に引き寄せられ、綺麗に重なる。
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