【好きだから別れて】
フルスイングで頭をハンマーで殴られた気分だった。


例えるなら、心臓を素手でえぐられるくらいの苦しさ。


こんなに恋い焦がれてる相手と話してるのに。


でもあたしは


紛れもなく


真也の妻…


「今更どうしようもないし」


そう。


どうしようもない…


「歩。聞いて欲しい」


「んっ。な…に…」


「俺、やっぱり結婚するのはお前だと思って電話したんだ」


「あっ!?」


言葉にならない。


待ち焦がれ続けた悠希の初めてのプロポーズ。


ずっと夢に描いていたのに、こんな形になるなんて。


遅いよ。


もう引き返せないフィールドにあたしは立たせられてるんだよ…


手にかいた冷や汗が涙の代わりとなり、真也の前で涙など流しちゃいけないんだって滲んでく。


悠希とちゃんと話したい。


目と目を見合せ、時間をかけ1から100まで話きりたい。


それなのによりによって真也がいる時に電話をかけてきてタイミングが悪すぎる。


「もう話す必要ないでしょ」


目の前で足を小刻みに震わせる真也に気付いていた。


いつも以上にカタカタうるさい貧乏揺すり。


冷静を装うしかなくて「はじめから自分は存在してなければいいんだ」なんて現実逃避したくなって。


あたしは平然と普通の友達と話す雰囲気をかもちだし、心で泣き崩れていた。
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