【好きだから別れて】
「歩。話さなきゃいけないんだよ…さっきさ、お前の後に彼女作ったって言ったじゃん。俺…最低なんだわ」


「なん…で?」


「彼女もさ…歩と同じ、妊娠したんだよ。俺の子をね…けど、俺、おろさせたんだ…」


「嘘っ」


「嘘じゃない。マジで……」


「嘘だ!」


受け止めきれない話の内容に驚いてしまったあたしは、真也がいるなんて忘れて取り乱し、両手で携帯を掴むなり声を荒げてしまった。


手にしていた本をゆっくりテーブルに置いた真也は、こっちを睨み見てる。


けど、そんな睨みなんて痛くも痒くもなくて。


あたしの頭には顔も知らない女と、悠希の手で命を奪われた赤ちゃんの姿が浮遊してた。


よりによって同時期の妊娠。


彼女は二度と我が子を抱き上げられなくて、あたしは抱き上げられる。


命をこの世に解き放てる。


なのに、悠希が赤ちゃんを殺してしまった…


「お前と結婚って考えて…なんでお前結婚なんてしてんだよ!お前なんで!」


「あたし…赤ちゃんが…」


違う。


悠希じゃない。


あたしが


彼女の赤ちゃんを殺したんだ…


「俺と付き合ってた時浮気してたのか!?そいつが旦那なのか!?」


「違う!」


「じゃなんで妊娠なんて…」


「赤ちゃん…が…」


血の気が引き蒼白なあたしは急な貧血が起こり、目眩が襲ってきた。


何の罪もない彼女に一生おろせない十字架を背負わせたくせ、自分はのうのうとお腹の子を守ってる。


罪の意識が降りかかり免れぬ恐怖で気が狂いそうだ。
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