【好きだから別れて】
あたしの元に舞い降りた希望の光を纏う天使は“光(ひかる)”と名付けた。


人生に迷い、暗闇の中で苦しむ人を見つけたら。


月の光のように柔かな光でソッと人を照らす人になって欲しい。


太陽ほど強い光を放たなくていい。


おぼろげな優しい光で傷付いた人を包んであげる子になって欲しい。


そう願いを込め「光」と名付けた。


光は訪れる看護婦達に「すごく鼻筋の通った赤ちゃんだね。こんなに鼻筋の通った赤ちゃん見たことないわ」と褒められ、とりあえず不細工な部類ではないようだった。


新生児の光は病院にいる間。


夜泣きもしない親孝行な子でとても育てやすく、たっぷり睡眠をくれる申し分のない子だった。


そんな出来のいい我が子に反し、出来の悪い母親のあたしが一歩病室を出ると、知らない入院患者に「病棟内に響き渡った悲鳴はあなたなの?凄かったよ~」と声をかけられた。


病室に来る看護婦も光を取り出してくれた医者も顔を見るたび「ぶっ。あなた凄かったんだから。暴言吐きまくりだし暴れるし。手におえなかったんだよ」とおもいっきり吹き出し笑いをして帰っていく。


おめぇらうっせぇな。笑ってんじゃねぇよ!ったく人の顔見りゃキチガイ扱いしやがって。変わりに産めっつの


口にしかかるも「もうママなんだからやめとけ」と光のおかげでブレーキをかけられる。


抜けきれない出産疲れで体が思うようにいかなくてイライラもつのるけど、愛らしい光の寝顔を見るだけで癒される。


出来の悪い母を持った光は不運だが、出来のいい息子を産んだあたしは幸せ者だ。


その幸せだけは噛み締めていたい…
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