【好きだから別れて】
そして1日1日退院が近付き、我が家に光を連れて帰れる日は迫まり。


入院から6日目の朝。


真也の出迎えの車が到着し、晴天の晴れやかな空の下。


家族三人は病院を後にする事となった。


病院を出る時。


この病院の決まりごとになっていた退院写真なる物を撮るはめになり、看護婦に誘導され真也、あたし、光でポラロイド撮影をした。


スッピンなうえダサい妊婦服で撮りたくもないのに、看護婦がはしゃいでシャッターを押しまくっている。


「お~いい感じに撮れてるじゃないか。頑張れよ。ママ」


「はい。先生ありがとうございました」


「お父さんも頑張れ」


「ありがとうございます。お世話になりました」


出来上がった写真を手渡され、医者に肩を叩かれた真也は恥ずかしそうに顔を火照らせ、深々と頭を下げていた。


一応挨拶くらいは出来るんだ。へぇ~


うちの親にはろくな挨拶もしないくせ外面だけはいい真也を横目に、光を腕に抱きしめ、あたしはゆっくり階段を先に降りていった。


出入口に立ち止まり、清潔感のある茶色い作りで出来上がった支払いカウンターで封筒に入った30万を手に握りしめ、あたしはため息をつき俯いた。


娯楽で作った借金のせいで出産費も準備出来ない真也にかわり、自分の親に頭を下げ借りた30万。


真也は自分の親に借りもせず、うちの親が払うのが当たり前って顔をして感謝の言葉もいっさいなかった。


真也と喋りたくもなくなり札束を黙々と数え、母に申し訳ないと思いながら出産費を病院に納め、光をキュッと抱きしめた。


男として。


人として。


情けない。
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