【好きだから別れて】
「実家泊まってくる」


真也にはたった一通のメールを送り、腹いせがてら光を連れ久しぶりに実家へ泊まりに行く事にした。


光の激しい夜泣きが始まり寝不足で身も心もクタクタだったのもあるし、真也の近くで笑う自信なんてなくなっていたからとにかく休憩したかったんだ。


「あんた痩せて…疲れてるんでしょ。少し寝なさい。今日はお母さん休みだから光見ててあげるから」


「助かる。ありがとう」


母親の好意に甘え、光を預けるとあっという間に気絶して深い寝りにつく。


夢すら見ない深い眠り。


このまま目覚めたくはない…


現実に引き戻されたくない…


グッスリ寝むり、約三時間。


目が覚めると部屋は暗く、夜になっていた。


「うわぁ。眩しい」


時間確認と着信はないか携帯をいじり、二つ折りの携帯を片手で開き見る。


と、あたしの頭には考えてはならぬ思案が浮かんでしまった。


こんな時しか悠希にかけられないよなぁ…


携帯のデータは消してしまっても皮肉にも悠希の番号がちゃんと記憶にインプットされていて、記憶はそのまま消せないでいる。


誘惑に揺れる気持ちと理性。


その二つが交差する。


かけたいよ…


ボタンを押すと、手が止まる。


あたし母親なんだ。


悠希にかけてはダメ。


光を裏切ってしまうのと同じになってしまう。


でもかけたいよ。鳴らしてみて…


わかってるのにボタンを押してしまい、誘惑に手招きされる。


耳に流れるコール音。


いざ音が鼓膜を刺激すると焦ってしまい即切った。


「やっぱダメ」


枕に顔を押し付け目を閉じ、モヤツク胸が灰色に染まった。
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